「人は自学でしか育たない」


 人財育成のための重要なポイントは「自学」(自ら学習する、自己啓発)をいかに促すのかという点です。

 能力開発のためのプログラムをいくら用意したところで個々の社員がそれにコミットしなければ全く効果がありません。効果測定不在の集合研修を何度受ける機会を与えたところで、またいくら有名な講師を呼んだところで、受講者が能力開発の意欲をもたない限りすべてお金の無駄遣いに終わります。

 個々の社員がどれだけ新しい知識や考え方を学び、自らの能力を高めようとするのかというモチベーションを引き出す仕組みや場が必要です。

「人は自学でしか育たない」

 
 スキルアップするのは、自分自身です。
「馬を水辺まで連れて行くことはできるが、水を飲みたがっていない馬に無理に水を飲ませることはできない」といわれています。事情は人間でも同じです。いくら豊富な「職場外研修」(Off-JT)のメニューを用意したところで、本人がその水を飲みたがっていなければ、喉が渇いていなければ、効果はありません
せいぜい、研修時間中座っていることを強制できるだけです。本人の頭の中にストンと入っていくためには、それを受け入れる姿勢、気持ちが必要です。

 人財育成の基本は「自学」(自己学習、自己啓発)です。自ら学び、学習し、成長する必要があります。人が育つプロセスの本質は、本人の自学のプロセス、自ら学習する自学のプロセスでもあります。

 人財育成のために周りの人間が行い得ることは、その「自学」のプロセスに刺激を与えることにすぎません。残念ですが、厳密にいえば人は育てられません。育つのを助けることができるだけです。
 では、どのようにすれば、個々の社員の自学を刺激することができるのでしょうか?
 
 
「あなたは,今まで、どのような時に一番成長しましたか?どのようなことがあなたの能力を向上させたと思いますか?」という質問をしました。
 各人それぞれ、答えを頭に浮かべたことと思います。
数件の事例としては、

(1)重要だと思える仕事を任せられ、勤務時間だけでなく、夢に出てくるほど仕事に没頭していたとき。
(2)他に頼る人がなく、追いつめられて自力で局面を打開する必要が出てきたとき。
(3)先輩や上司から課題を与えられてそれを達成したとき。
(4)どうしてもやらなければならないとき。
(5)ちょっと無理をしないとできないな、と思えることに敢えてチャレンジしたとき。
(6)異なる組織の人と継続的に交流をして刺激を受けたとき。
 
 どうやら人は、そうせざるを得ない状況に置かれたとき、もっともよく学び、自己変革を遂げるもののようです。つまり、このような状況を自ら創出することが成長につながるわけです。

 自学がどのような時に刺激されるのかを考えていったとき、ポイントの一つはジョブローテーションや職務割当の変更であり、人事評価です。

 人は新しい仕事を割り当てられたときに、チャレンジ精神が鼓舞され、それに一生懸命に取り組もうとすることします。また、上司や同僚に、よく頑張ったね、とほめられたとき(評価されたとき)、何ともいえない達成感を味わいます。
 
 昇任を目の前にして、試験に取り組んで様々な知識の広がりを習得することもあるし、昇任後、新たな役職に任命されて、そのための自学に取り組む人も多いでしょう。
 
 さまざまな人事諸制度が、自学の刺激につながります。図に示した、様々なシステムが相互に連動しながら、自学を刺激していくものと考えられ、ひいては、能力開発・人材育成へとつながります。研修制度はその中のひとつに過ぎません。
しつこいようですが最後に繰り返しておきます。

「人は自学でしか育たない」

引用:大阪市立大学大学院法学研究科長・法学部長稲継裕昭氏のメルマガより